山野井泰史さんの映画が出るというので楽しみにしていたら、今週で終わりだという。油断していたらいつの間にか始まっていた。
仕方ないので平日に半休でも取ってこっそりと行こうかと考えていると、部署でコロナ感染者が出て休めなくなってしまった。無念である。DVDか何かが出るまで気長に待つしかない。
まあ、山野井さんについては著書も持っているし、講演も聞いたことがある。ドキュメンタリー映画というが、過去の映像が多いし映画館で見る必要もないだろう。今は「酸っぱい葡萄」の話のように自分を慰めている。
蛇足ながら山野井泰史さんについて書くと、日本屈指のソロクライマーである。
登山用語で言う「ソロ」というのは文字通り独りで、一般登山ルートにいるだけで独りではなくなってしまう。後から後から「こんちわ~」と来てしまうからだ。その意味でソロになるにはバリエーションルートと呼ばれる難しいルートを場合によってはロープ確保なし(これをフリーソロと呼ぶ)で登ることもある。
危険度が高いわけなので、そもそも実行する人が少ない。
そのソロクライミングを8000m峰で行っていたのが山野井泰史さんで、8000m峰のバリエーションルート、単独登攀を行った世界で4人目の人物である。
スポーツ界だとマラソンの瀬古利彦、昨日バンダム級で4団体統一した井上尚弥くらいと考えていいだろう。
世界レベルのアスリートを評価するのは難しい。
例えば王貞治は世界一の打者かと訊かれれば、日本人は'YES'と言い、アメリカ人は'NO'と言うだろう。活躍したフィールドが違うからだ。あるいはイチローならどうかとなれば、ホームランに重きを置く人は認めない。マラドーナはどうかとなると引退後の素行まで問題視される可能性もある。
陸上競技はもう少しわかりやすい。世界記録を持っていれば確実に世界一だからだ。ウサイン・ボルトは間違いなく世界一の短距離ランナーである。記録は有無を言わせない説得力を持っている。
それでいくと登山は自然という不確実性の多いフィールドで、審判なしで行うのだから、何をもってしても世界レベルと言いにくい。しかも現在はエベレストに一般人が登れる時代なのだ。さらにルートの難度も行った人しかわからない。
ただ、登山は命が懸かるという面では他のスポーツとは大いに違う。安易な挑戦ができない以上、「偽物」はなかなか立ち入れない世界なのだ。その意味で山野井さんが「本物」であることを疑う登山者はいない。
う~む。それにしてもつくづく惜しいことをした。