クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

藤井名人の誕生なるか

週末のパックラフトの話から本日はいきなり将棋の話に変わる。

藤井竜王名人戦3勝目ということで、いよいよ最年少名人と七冠に近づいた。

過去唯一の七冠制覇はもちろん羽生善治。今、河口俊彦『覇者の一手』を読むと羽生善治の七冠ロードがよくわかる。河口俊彦はもう亡くなったが、プロ棋士であり将棋の観戦記者として業界では有名。自分の将棋を指しつつ、他人の将棋を眺めてあれだけの文を書き残すのは大変なことだと思う。

その河口俊彦大山康晴から羽生善治までの歴代名人を見ている。その中でも羽生善治についてたくさん著作を残しているのは、当時としてかなり「異質」な存在として見えたからのようだ。

有名な話に、A級順位戦で初登場の羽生が中原誠谷川浩司との対局で上座を占めたという「事件」がある。当時、羽生善治棋聖のタイトルを持つ。したがって、無冠の相手より格上となるのに間違いはない。ただ、大先輩を差し置いて上座を占めるのは伝統と格式の将棋界では難しい。というか気が引けるのが普通だと、当時の棋士たちは思うものなのだ。

それを気にしない羽生という人物を河口はいい意味で頼もしいと思っていたらしい。

さて翻って藤井竜王

今は将棋界もオープンになった。その中で藤井竜王の印象を見ると、とんがったエピソードは全くない。将棋は四段から完成されていて無味無臭な感じすらする。

しかし、上にわき目も振らずに駆け上がる人物というのはそういうものなのだろうか。その後に「風格」とか「貫禄」が付いてくるのだろう。逆に言えば風格のない今こそが名人になるときと言えるかもしれない。

 

その『覇者の一手』の冒頭に、「渡邊明君という天才少年」が登場する。

将棋の世界は10年ごとに天才が現れると書いており、羽生善治の10歳下の天才として注目されており、その天才が現名人。まだ渡邊君については「大山名人によく似た少年」としか書かれておらず、指す将棋を見たことすらないとある。それでいて「羽生君は彼にやられる」と買っている(中原誠がそう言ったとある)のだから、当時の評判というのは凄い。

そのかつての天才少年をさらに20歳下の天才が挑むというのが今回の名人戦の構図で、歴史は繰り返すのである。

渡辺名人を応援したい気持ちもあるし、藤井名人の誕生も見たい。見るだけ将棋ファンも今はヤキモキしている時期なのだ。