クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

今更のランナー

去年の6月に「いわて銀河チャレンジマラソン」の100kmの部に出た。今更の話ながら、出場するまでについて書きたい。なぜ今更かという理由は読めば出てくるかもしれないし、出てこないかもしれない。

 

なぜ100kmマラソンにエントリーしたかと言えば、ノリとしか言いようがない。私がエントリーする直前、会社の後輩が東京マラソンにノリでエントリーして抽選に当たってしまい、大して練習もしない中で完走した。月曜に足を引きずりながら出社した後輩を見て、「こやつがフルマラソン完走なら、自分はウルトラを完走せねば格好がつかない」と思ったのだ。彼の方が若いし、体格も立派なのだから、別に対抗意識を持つこともないのだが、なぜかウルトラマラソンの大会を検索し、ノリでポチッとしてしまった。

押した瞬間の後悔はなかなかのものである。日頃さまざまな失敗をして生きているが、これくらい確信的な失敗は滅多にできない。何しろ金を払って時間を割いて苦行を味わいに出かけるのだから。

 

そんなわけでただのノリで地獄への一歩を踏み出したわけだが、少しは地獄度合いを軽減しなくてはならない。そのためには練習は無論のことだが、経験者の意見を参考にするのが近道だ。ウルトラマラソンは最近人気が広がって、陸連公認の「サロマ湖100kmウルトラマラソン」などすぐにいっぱいになるが、攻略本となるとさほど多くない。やはりマラソンの主流はフルマラソンであり、ウルトラマラソンはフルの距離に満足できないランナーやスピード競技に飽きたランナーのセカンドライフ的な趣が強い。ましてやフルマラソンすら完走したこともないランナーが出場するのは無謀を通り越してただの阿呆である。そんな阿呆に向けた本などこの出版不況の折にあって刊行されるはずもない。結局私はウルトラマラソンを愛好する先人たちのブログを参考に自分なりの攻略法を考案することにした。

 

最初に見たブログの管理人は「制限時間ぎりぎりで完走するくらいの実力」とのことだった。初心者としては参考になりそうだ。サイトによると、100kmを完走するコツはペース配分であるそうだ。なるほどなるほど、もっともである。正しくペースをつかめば完走できるが、100kmの長丁場ではそれが難しいらしい。確かに私にとって25km以上は未知の領域だ。その4倍なんか想像すらできない。

ではこのサイトの管理人が正しいペース配分を実現するために提言しているのは何か。GPS機能付きの高性能腕時計を利用せよと言う。GPS機能付きの腕時計は謂わばカーナビ機能の付いたスマートウォッチらしく、スイッチを入れて走るだけで走行距離やペースを測定してくれる大変便利なものらしい。ただしお値段5万円以上。ありがたい提言だが、たった一回の大会のために負担するには大きすぎる。それにこのハイスペックな腕時計は20時間くらいしか駆動しないらしい。直前に充電し忘れたら、レース終盤でランナーより先に息絶えてしまう。

そういうわけで最初の先輩のアドバイスはありがたく心に留めつつ丁重にお断り申し上げた。

 

大会までの時間は少ない。次に行く。続いてのサイトの管理人はもうウルトラマラソンばかり走っていて、ベテラン中のベテランのようだ。その人は練習について多く語っていた。

100kmにチャレンジするなら少なくとも半年前より準備せよ。そして月間走行距離は少なくとも300km、できれば400kmを走れという。まず、私が大会にエントリーしたのは2月で、大会は6月11日。すでに半年の猶予はなく、4月の平日は仕事が遅くて走ることができない。これまた先輩の金言というものだが、できないものは仕方がない。100kmを完走するためにはとても頑張らないといけないということだけ胸中に納めて練習には励むことにした。

 

いろいろなサイトを見たが、走るための最重要装備はシューズだ。ローマオリンピックの時のアベベみたいに裸足で走るなどできない。ウルトラマラソン用のシューズについても調べてみた。

シューズは丈夫派と軽量派に分かれるようだ。あるサイトでは絶対的な軽量派信者で、「完走したければ軽いシューズにしなさい」と言っている。私も登山では軽量化主義者だが、ここ数年足の裏に足底筋膜炎らしき痛みが走ることがある。特にソールの固い厳冬期用登山靴を履くと土踏まずがピリピリすることがあるが、歩けないほどの激痛になったことはない。ただ今回は未知の100kmを走るのだから、いつ足の裏の板バネがはじけ飛ぶかわからない。ネット上の先輩には敬意を表しつつも私にはリスクが高いとして、ソール厚めのマラソン初心者用シューズとしてアシックスのGEL-KAYANOというモデルにした。ふかふかで大変気持ちいい。

 

数々のアドバイスを見たものの何一つ参考にしなかった結果、オーバーペースで終盤ヘロヘロになり、練習不足で両足は使い物にならなくなった。ついでにもう一つ、「エントリーと同時に宿の予約をせよ」というアドバイスも無視した結果、前日寝る場所にも往生した。

それではなぜ今更1年前の話をするのかだが、先日白馬岳に行った。白馬岳は頂上直下に大規模な山小屋が整備されていることもあり、北アルプス初心者にちょうどいい山となっている。私は行ったことがなかったので何となく行っただけだが、登山口に下りてみると、登山指導員(というのかな)に熱心に上部の状況を聞いているおじさんがいた。「そんなこといちいち聞かなくても行ってみればわかるではないか」というのはこちらの意見で、随分長いこと「ヘルメットは必要か」「アイゼンはいるか」まで聞いていたようだ(聞くくらいなら持ってこんかい)。

それを見ながら「仕事じゃないんだからさぁ」といい加減登山者として思ったのだが、それとともにふと1年前のいい加減マラソンを思い出した。あの時すべてのネット上の先輩たちのアドバイスを聞いて滞りなく完走した場合、どのような感想を抱いただろう。走った事実は変わらないが、「自分で作り上げた大会」という意識はより薄くなっただろう。

結局、何が言いたいかわかりにくい文章になってしまった。まあ遊びなんだから気楽に行こうよ、ということで。