世界には日本人しか食べないものが多い気がする。マグロや牛タン、マツタケ、イクラなんかは日本人がいなければ価格の大暴落が始まるだろう。
一方でこれらの食品は日本人でなかったら知らぬまま一生を終えたかもしれない。幸せなことである。
今回も引き続き北海道旅でのグルメを紹介したい。
③生ウニとウニ丼
北海道と言えばウニである。鮭でもイクラでもカニでもジンギスカンでもいいけど、やはりウニである。
これほどまで憧れるのは、学生時代に北海道を旅行した際にはロクに食っていないということが大きい。旅の最後に襟裳岬でミニウニ丼なるものを食ったものの、小さな欠片が一つだけだったので、味はまったく覚えていない。注文した後に、キャンプ場で会ったおじさんに奢ってもらうことになったので、「ミニ」にしなければよかったとセコいことを考えた記憶がある。
さて、それ以来「憧憬のウニ」となってはや十数年である。
今回、ウニは意外なところで食べた。利尻島の鴛泊から歩いて沓形まで散歩をしていると、途中の納屋のようなところでおじいさん、おばあさん、息子、高校生くらいの孫と思しき4人が黒い笊を囲んで何かをしている。黒いものはもちろんウニであり、4人で殻を割っているのであった。相方が「こんにちは~」とあいさつをし、「それウニですか?初めて見ました」と積極的に話しかけた。
そこからは、おばあさんが「食っていけ!」となんと2個も割ってくれるという夢の展開になり、憧れのウニはあっけなく口中に入ったわけである。
採りたて、何もかかっていないウニはどのような味がするか。
最初に香るのは磯の香、そして味は海水の味。そして黄色い身の部分はほんのりと甘い。一言で言うとやや粗野な味で、ウニを食っているというより海を食っている感じがする。
「これはウニが食った昆布」
と言っておばあさんが指さした。よく見ると黄色い身の横にもずくのようなものが付いている。
「はあ、利尻昆布を食べてるんね」
美味いものを食べて美味く育つのだ、生き物というやつは。
粗野なんて書いたけど、生き物はそもそも粗野であり、だからこそ美味いのだ。そう考えると潮の匂いも仄かな甘みも、これこそウニという気がしてきた。
「これキロ3万くらいかな」
おじさんが言う。高いのか安いのか判断しかねたけど、海に出て採取し、それを手で割る姿を見ると、われわれ2人のために割ってくれた2つのウニをとんでもなく高級なギフトのように思えてきた。
その翌日、フェリーターミナルの前で、今度はお金を払ってウニ丼を食べた。
採れたてを塩水で食した時と違って上品な甘さで、日本人でよかったと思える瞬間である。磯の香りとウニの甘みが程よくミックスされている。ウニ丼に盛られた蝦夷バフンウニと昨日のウニでは種類も違うのだろう。
しかし、私たちとしてはおばあさんの好意でいただいたウニが人生最高のウニであることで一致していた。