クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

コロナにまつわる無言喜劇

昨年からコロナ、コロナ一色だが、コロナ絡みで小話を一つ。

職場で感染者が出た。大騒ぎというほどのことはないのだが、周囲の人をPCR検査の対象にしたり、大変である。みんな感染者と接触があったか記憶を辿っていた。

 

その中で1人、数日前に言葉を交わしたという50くらいのオジサンがいた。

そのオジサン、Hさんは感染した人と特に仲がいいわけではない。別に一緒に飲みに行ったわけでもないし、その時の会話も内容は社交辞令的でマスク越しにしか話していない。移るわけがない。それにもっと密接して話している人はたくさんいる。

ところがこのHさん

「いやあ、これは移ったかもしれない。他の人に移すかもしれないから検査の結果が出るまでしゃべりません」

と言い始めた。

仕事熱心で知られる人なので、普段仕事の話をなると口角泡を飛ばす勢いで話す人が急に黙り込んだ。ところが仕事はやはりするし、話さないと不便。私も伝えることがたくさんある。

私はお構いなしに席まで行き、話しかける。するとHさん、わかったというように大きくうなづき、指でOKサインを出す。

本当にしゃべらないらしい。

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Hさんは乗り鉄だったりする

そのうち、Hさんがボスに話さないといけないことがあった。

どうするのかと見ていたら、紙を持ち出しそれを示している。

「なになに。はあ」

Hさんより若いボスは笑いながら返している。

 

しかし、コロナの感染者が出たことで私たちも思わぬしわ寄せを受けていた。明日は唐突に全員在宅勤務だという。今日中に終わらせないといけない業務が急に増えてしまった。

私はもうお構いなしにHさんに話しかける。

Hさんはもともとおしゃべりな人である。「しゃべらない」宣言しても反応して声が出る。私がこれはこうでと説明しているとHさんが紙に何か書き始めた。

何かと覗き込むとこう書いてあった。

「しゃべらせないで下さい」