ある週末、唐突に相方から
「人生で戻れるなら戻ってやり直したいことってある?」
と訊かれた。
むむむ。考えたのだが、ない。
決して衒っているわけではない。「こうなっていたら、ああなっていたら」と考えなくてはないのだが、それによってより良い人生を歩めた自信がない。
例えば、私は第2志望の大学に入ったわけだが、第1志望だったところに合格できたとしよう。
第1志望だったところは第2志望よりはるかにネームバリューもあるし規模も大きい。学生のレベルも高いし就職も楽になるだろう。
ただ、ギリギリのレベルで入った学校で苦しむというケースを耳にすることがある。今まで成績優秀で鳴らした人間が秀才に囲まれるとそのギャップは辛いと聞く。
そんなことを聞くと第2志望でよかったのかなという気がしてしまう。私は基本的にネガティブ思考なのだ。
あるいはこんなのは。
私は低山ハイキングから8年ほどを経てようやく厳冬期登山に手を出した。大学の山岳部なんかは1年目から始めるだろうから、もうちょっと早く、20代前半で始めていたとしたら、とか。
おそらく今は中途半端なところで停滞しているが、本格的なクライミングにまで手を伸ばしただろう。映画『アルピニスト』のマーク・アンドレほどじゃなくともアイスクライミングくらいはやっていたかもしれない。
ただなぁ。アルパインクライミングは危険と隣り合わせ。私と同時期に雪山を初めてどハマりした人の中には滑落して九死に一生という人もいた。
もしかしたら今頃死んでいたかもしれない。それもどうかなあ、などと考えると結局今の状態でいい気もする。
「人間万事塞翁が馬」という言葉がある。
故事の中のストーリー。塞翁の息子が落馬して大けがをした。家族は嘆いたが、それによって匈奴との戦に狩り出されず済み、多くの若者が亡くなる中で生き長らえた。
私は過去をやり直してもネガティブ思考でいい結果が出ないことを想像してしまう。一方で現実の不幸に対しては塞翁が馬のように、もっと大きな不幸に遭うよりマシとプラス思考になる。
過去は後悔しない。今はベストではないけど、まずまずベター。未来に対しては楽観視していないけど、絶望はしていない。私の前向きマイナス思考では過去をやり直したいとどうも思えない。
結局、今をどうするかが肝心なのだ。