クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

街に下りたら何食べよう?

週末、先崎学棋士の腹のうち』を読んで、久しぶりに腹を抱えて笑ってしまった。

将棋の棋士である先崎学九段が食べ物にまつわるエッセイを綴っている。今でこそタイトル戦での食事がネットニュースになるくらいだが、将棋の棋士の行動範囲は極めて狭いので、どうしても将棋会館のある千駄ヶ谷中心となる。この本も基本は千駄ヶ谷近辺での棋士の食についてがテーマになっている。

可笑しかったのが「青山外苑」で、これは高級焼肉店棋士の卵、奨励会員を連れていく話だ。単に後輩たちを焼肉に連れていくだけなら世間的にも珍しくないのだが、将棋指しというものの性質が見て取れる。

話は「将棋の日」のイベント後。奢る棋士2人に対して奨励会員は30人。しかも高級焼肉ともなれば、普通先輩の懐を心配したり遠慮が発生するもの。ところが、奨励会員はその直前のイベントの憂さ晴らしなのか、普段のストレス発散のためなのか、大先輩たちを前に「特上カルビ10人前!」とか言っちゃうのだ。

私なら社長が奢ってくれても控え目に「特上」ではなく「上」くらいにする。

これのどこが将棋指しなのかと言うと、彼らの出世は自分の盤上の結果にしかなく、先輩にいくら忖度しても一銭にもならないということだ。勝って棋士になることが奨励会員の最大の目標であり、先輩にゴマをすったところで将来が約束されるわけでもない。

だったらこの場で腹いっぱい高級焼肉を詰め込もうという思考になったと思われる。

さて、将棋の切った張ったとは違うが、登山なんかの後の食事も解放感からか、なんとなく思い出深いものになる。最近はあまりないが、多少緊張感の強いられた後は「街に下りたら何食べようか」とばかり考えたりする。

山ではどうしてもラーメンやアルファ米、行動食はかりんとうやクッキーとなるので、多少脂っこくてしょっぱいものが欲しくなる。

先日の笠ヶ岳登山の後も結局は下山して平湯温泉のバス停で食べたのはかつ丼だった。飛騨豚を使った1100円也の高級丼で、下山後で腹も減っていて結構美味かった。

将棋の勝ち負けと登山の緊張は全然種類が違うのだが、人生を賭けた勝負という意味ではわりと近しいのではないかと思っている。

その意味で、勝負中の飯より勝負後の飯は両者とも感慨深いものになるのだろう。