五名山を選んでいたら三山で止まっていた。百選ぶのも大変なら五に絞るのも大変と感じた次第。
さて、四つ目の山を選定したい。
登山を始めた頃、『山と渓谷』やらを見ては「中級」を選んで登っていた。なぜ中級かと言えば初級は嫌だけど上級に行く勇気はない。雲取山のテント泊とか両神山日帰りなんかは大したレベルではないけど、初心者から中級者までを相手にした『山と渓谷』としては中級なのだ。
何だ?妙義山って?
妙義山は上毛三山の一つ。群馬県の山である。高崎市から見て西側、軽井沢の手前くらいに位置している。わずか1000mくらいの山ながら、遠くからもギザギザした稜線が良く見える。鋸のようなという比喩があるが、まさにそれで平地から唐突に屹立した山容を相まって上州人の一筋縄に行かない性格を示している(適当なことを書いています)。
上州と言えば司馬遼太郎の『北斗の人』では、剣豪・千葉周作が地元流派と対決し、道場同士の大騒動に発展する。やるとなれば互いに血反吐を吐くまでやるという頑固一徹、武骨なイメージがあり、その性質を体現しているのが妙義山のように思えてならない(すごい偏見)。
妙義山には明確なピークはなく、山塊の総称である。その山塊も二つに分かれていて、妙義神社のある南側は表妙義。JR横川駅の方に近い北側を裏妙義と言う。
7年間にはJR松井田駅からてくてく歩いて表妙義に行った。
松井田駅でタクシーを拾おうとしたら「タクシーというものはここではありません」といった風情の駅で、やむを得ずダラダラ汗を流して歩いたのである。
表妙義は麓に妙義神社があり、途中までは参道といった雰囲気だ。ただ、稜線に向かうや一変して「上級」コースとなる。鎖やなんやが多くて傾斜が急。
この時は一緒にボルダリングジムに通う先輩と実戦がてら行ったのであるが、フリークライミングとあまりに違っていて普段の鍛錬は全く役に立たなかった。場所によってはのっぺりとした岩で、鎖がないと登ることも下りることもできない。
稜線を登ったり下りたりすると想像以上に神経が擦り減っていた。
そして先日は裏妙義に行ってみた。
横川駅から徒歩で入山。鍵沢ルートというところから丁須の頭を目指す。
鍵沢は取り付きが崩落していて怖い。鎖や梯子がかかっているものの、梯子はワイヤーで吊るしたような状態なので、支点がいつ壊れるやらわからない。
そこを抜けると歩きやすい植林道でほっとする。いくらスリルを求めてやって来ていても、グズグズの崩落地帯は嫌だ。
まあそんなこんな、途中は妙義山恒例の長い鎖場なんかもあって稜線に着くといっぱい人がいた。
丁須の頭はトンカチみたいな形をしたピークである。
トンカチの頭の部分まで鎖を伝って登ることができるが、クライミングとして楽しくなさそうだし、落ちたらアホみたいなので止めておいた。
天気は快晴。
トンカチの下で行動食を食べ、下りのためのハーネスを着けて下山を開始した。
妙義山はハイグレード登山の殿堂で、標高の割にかなり難しいルートが多い。稜線は『山と高原地図』では破線だらけ。
私はまだ二度しか行っていないが、まだまだ奥が深そうだ。
百合若大臣と従者が開けたという星穴という壁の穴も見てみたいし、裏妙義の奥にはまだまだ稜線が連なっている。
さしあたって、妙義山は現代の大人になりきれない大人が遊ぶアスレチックだ。大人の遊びに終わりはない。