クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

ソウルフードの行方

今、我が家の冷蔵庫には常に納豆がある。

これは私が常備しているわけではなく相方が買ってくる。なくなってもいつの間にか補充されていて、いつの間にか減っている。

関西出身の私としてみればなんで納豆を切らさないのか不思議だ。食べられないわけではないし、あれば食べるけど、買って食べるほどではない。

それが納豆に対する私のスタンスだが、相方にとっては半年間カナダで過ごした時も食べたくなった「ソウルフード」だという。

 

植村直己が『青春を山に賭けて』で「日本人の口はタクワン臭いに違いない」というようなことを書いていた。

今、日本人の中で沢庵がソウルフードだと主張する人は少ないだろう。漬物、特に糠漬けは時折食べたくなるが、手間のかかる食品なので、ソウルフードと言っていいのかどうか。

私は漬物も浅漬けか実家から送ってもらう奈良漬けがメインで、常備しているものはない。

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ソウルフードは刺身?

韓国人の友人がいる。

コロナでずいぶん会っていないが、彼の故郷のソウルフードは何と言ってもキムチである。野口健の話ではエベレストベースキャンプにも韓国隊は樽でキムチを持ち込むらしい。

ところが冗談で'made in Koreaです'と話す彼はキムチが嫌いなのだという。そんな韓国人がいるのかと驚いたが、納豆嫌いや沢庵嫌いが日本人にも一定数いることを考えると当然か。

私も両者とも食べられないわけでもないし、特段嫌いでもない程度。

海外の人に

ソウルフードは何ですか?」

と訊かれたら私自身が返事に窮してしまう。

 

日本人が長寿化した要因は菜食でも魚食でもなくいろいろ食べるようになったことらしい。

してみると日本人のソウルフードは「雑食」。肉も魚も、山菜も海藻も食べる。生でも焼いても煮ても食べる。

多様性がいわばソウルフードという国にいるのは珍しいし、だからこそ面白い。

登山前の天気予報の使い方

もうすぐゴールデンウイーク。そう言いつつ去年は1日しか休めなかった。

特に天気が良くて絶景写真とか送られてきた日には悔し涙が出てしまう。その代わりに雨予報だったりすると心安らかに仕事に励むことができる。

要は小さい人間なのだ。

そんなわけで私は山に行かないときでもよく天気予報を見る。そして現地の天気を想像する。今回は、これまでの経験から素人でもできる天気予報の使い方について書いてみたい。

 

①現地の天気予報を見る。

当たり前の話だ。

しかし、山の天気を見る場合、大抵麓の天気を見てしまう。山は麓と麓を遮るものだから、少なくとも2ヶ所。できれば東西南北すべてを見た方がよい。

例えば、北アルプス穂高岳に登りに行くなら高山や飛騨、松本。麓天気予報では松本だけが出てくるが、実際に行ってみると松本市街は晴れていて、穂高連峰に雲がかかっていることが多い。

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②風予報を見る。

風は風速20mくらいを目安にしている。25mを超えたら、特に冬はやめたほうがいい。

しかし、それ以外にも見方がある。

北風なら北の天気予報に重点を置いてみる。南風なら南。おおざっぱな考え方だが、多少のヒントになる。

 

③気温を見る。

服装を考えるのは当然だ。寒ければ厚着しなくてはならない。

しかし、それだけではなくて時期に合った気温なのか、その日が特別暑いのか(あるいは寒いのか)を見てみる。

突然変われば天気が不安定になる可能性があるし、雷の発生も起きうる。

 

まあ私は気象の勉強をしたわけではないし、中学の時にサボったのをやや後悔している。身近に気象予報士試験を通った奴がいたのでもっと聞いておけばよかった。

そんな後悔がありつつ天気予報を日々眺めている。

今回書いたのはあまり根拠もないので、ご参考までに。

音の楽しみ、風の楽しみ

週末、音響機器を見に行った。

自宅にあるCDプレーヤーはオンキョー製でこれもなかなかの代物なのだが、CDをうまく読み取らなくなっている。相方が持ち込んだもので、もう10年近く経っているというからやむを得ない。

スピーカーがきれいなので残してもいいと思ったりもするものの、バラバラに買うと結果的に高くつくのでどうしようかという感じだ。

 

とりあえず見に行った(というか聞きに行った)。

JVCのEX-S55が素晴らしい。ウッドコーンという木製のスピーカーで、1つのスピーカーで低音も高音も両方出す。2つのスピーカーで役割分けをしているのと違って、一体化した音として聴けるのがいい。

それと比べるとSONYのコンポは平板というか、音にメリハリがなくてなんとも響いてこない。15年くらいSONYのラジカセを使っていたけど、今聞くとチャチに感じるのはなぜだろう。

と分かったように書いてみたのだが、私は音響マニアではない。でも心に響く音があることだけはわかった。

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富士山の日の出



 

一昨年、御殿場口から富士山に登った。

6月の最終週で、まだ人は多くない。というか御殿場口はまだ閉山状態なので、私と友人の他は1人しかいなかった。

登り始めると風が強くなる。危険というほどではない。ただ、登り始めは夕方だったので、間もなく日が落ちて、風の音だけになる。

富士山の風というのは他の山と違う。止まらないのだ。

ゴーゴーと吹き荒れ、腹に響く。他の山みたいにある種のリズムを刻まない。ずっと聞いていると気が狂いそうになる。

この時は、途中からラジオを聞いて逃げることにした。

 

富士山では狂おしい気分になった。それでも山で風の音を聞くのは嫌いではない。

今は電車も街も緊急事態宣言下で私語厳禁の無音の世界。

こういう時こそ音楽、水の音、風の音を楽しみたい。

休業要請に見る「遊び」の思想について

またしても緊急事態宣言である。

こういう時の政府や自治体の指示はある種の思想が入っていて興味深い。

今回の休業要請の対象は以下のとおりらしい。

映画館、プラネタリウム、大規模小売店、ショッピングセンター、百貨店、マージャン店、パチンコ屋、ゲームセンター、博物館、美術館、科学館、記念館、水族館、動物園、植物園、個室ビデオ店、個室付浴場業に係る公衆浴場、射的場、勝馬投票券発売所、場外車券売場、スーパー銭湯、ネイルサロン、エステティック業、リラクゼーション業など

前半の大型で数も多い商業施設に対して「射的場」とはなんともニッチな。ボーリング場とかバッティングセンターとかはいいのかな。そしてまたしてもパチンコ店が対象に。

勝馬投票券発売所」って場外馬券所のことかな。負馬に投票しちゃう人もいるだろうに。

「個室付浴場業」って何だろう?スーパー銭湯?それとも・・・?

 

見ていくとおおよそ「娯楽」の概念に当てはまるものは休業要請しようということらしい。

早い話がこれを見れば官公庁の言う「娯楽」がわかる。「飲む、打つ、買う」の三拍子なのだ。

野田知佑さんがカヌーに乗っていると、「何をしている?」と訊かれて困ったという。カヌーに乗るのが遊びだと言っても通じないのだという。

船で遊ぶと言えば芸者を乗せてチントンシャンとやることしか思いつかないのだろうと野田さんは書いている。

 

登山は開放的だからOKが出たのだろうか。それとも施設を使わないからいいのか。それとも娯楽の枠から外れたのか。

まあ登山やキャンプも「休業」させられると困るのでいいんだけど。

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これは「娯楽」にはならないらしい

 

スローな旅、スローな人生への憧れ

昔、北海道で聞いた話。

「北海道に初めて来る人は車で旅行するんだよ。それで次はバイクになって、その次は自転車。最後は徒歩になる」

当時、自転車で旅行していた私はホンマかいなと思った。徒歩だと北海道はあまりに広い。1ヶ月あっても足りない。

しかし、その話は年を経ると真実だと思うようになってきた。自動車の慌ただしいスピードに感覚がついていけない。動体視力の問題ではなく、短時間では土地の空気に馴染めないのだ。

それは外界への対応スピードが年を経て遅れていくからだろうか。

 

人の時間への感覚は年々早くなるという。

1年があっという間、そのうち10年もあっという間になるのだろうか。しかし、それはそれでいいのかもしれない。

スローな旅をしてスローな人生を送る。それで楽しければいいじゃないか。

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我が愛車 C9

 

ハーケンとWEB授業~椎名誠『ハーケンと夏みかん』

「ハーケン貸してくれない?」

相方が唐突にリクエストしてきた。

ハーケンとは日本語に訳すと「岩釘」。岩の割れ目に差し込んで、支点にするための道具である。

なぜそんなものをリクエストしたかと言えば、椎名誠『ハーケンと夏みかん』をWEB授業で使おうということらしい。

 

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昨年、ハーケンを持参した沢登

 

物語は高校生だった椎名誠が悪友の沢野ひとしと学校をサボって千葉の鋸山へロッククライミングに行くという話だ。

ロッククライミングに憧れる沢野がロープとハーケンを持っていつもと違う列車に乗って岩場に向かう。しかし、肝心の沢野は兄貴から借りたという道具はあっても正式に使ったことはない。これから命のかかったクライミングをしようとするのに、彼が練習で登っているのは松の木だという。

間の抜けた話だが、不良高校生がクライミングに憧れるという姿が愛らしい。

結果は、クライマーを気取る沢野がわずかに登ったところで滑り落ち、擦り傷を作ったところで断念する。その帰り道に生っていた夏みかんがこの作品のもう一つのテーマとなる。

 

ところで私のハーケンはまだピカピカ。

去年、沢登り前に買ったのだが、残置支点が多い沢で使用しなかった。ただ、油断していた下山途中に溺れかけるという目に遭った。

 ハーケンは試しに一度打ってみただけで、命を託す場面では出ていない。

 どんなふうにWEBで授業をしたのかはまだ聞いていないが、数十年前の不良高校生たちのどたばたを今の繊細な中学生(と聞いている)がどのように感じたのだろう。

果たして彼がハーケンを打つことはあるだろうか。

ハーケンと夏みかん (集英社文庫)

ハーケンと夏みかん (集英社文庫)

  • 作者:椎名 誠
  • 発売日: 1991/03/20
  • メディア: 文庫
 

 

日本に残るのはグルメ旅

『英国一家、日本をおかわり』を読んでいる。

これは『英国一家、日本を食べる』の続編(続々編かもしれない)で、イギリス人の筆者が日本のあちこちを家族を連れて旅行し、土地土地の美味いものを食べるというわかりやすい構成だ。

前作ではわりと高級なところも行っていて、服部栄養専門学校服部幸應おすすめの店とか、素人がなかなか行けないところにも行っていたのが、今回はわりと庶民的となっている。

海苔とか佃煮なんかは日本人なら当たり前の料理(と言っていいのかな)だが、イギリス人には当然珍しい。それと、なによりイギリス人らしいシニカルな視点とユーモアも面白い。

出島では、極東まで来て閉じ込められたヨーロッパ人がやたらに強調されている。確かに地球を半周近くも回って、やってきたら猫の額ほどの埋め立て地に閉じ込めるのだから、これはちょっとした悲喜劇でもある。

英国一家、日本をおかわり

英国一家、日本をおかわり

 

 

少し前にYouTubeでやっていたナショナルジオグラフィックでも屋久島の食が取り上げられていた。どうも日本を語るうえでは、もはや経済大国とか、産業大国を言うことはなくなり、極東のヘルシーで何でも食べてしまうグルメの国という扱いになっている。

一昨年、カナダに行った際はインド料理、中華料理、ギリシャ料理、多国籍料理(韓国・中国・ヨーロッパの組み合わせ)なんかを食べた。全世界的に食の多国籍化が進み、その中で日本が占める地位はもはや自動車産業以上なのだろう。

 

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これは屋久島首折れ鯖

正直な話、日本にいてよかったことは食についてである。
先週、鯖や金目鯛の刺身を食べた。最近は外食しないので少し高いものを食べる傾向にあるのだが、日本に残るのは食しかないのではないかと感じたりする。

それしかないのも寂しくはあるのだが。

まあ、全人類「色即是喰う」なのだから、食が生きることを支えている以上は、美味いものを食って生きていきたい。