クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

人生のPEAK

12月フルマラソンに出場する。ただ単に申し込んでお金も払ってしまったのだから仕方がない。そういうわけなので、そろそろ本格的に準備にかからなければならない。

「フルマラソンを走ります」

と走ったことのない人に言うと、「おー!」と少しはリアクションしてくれるわけなのだが、大したことではない。制限時間は7時間だから最初から歩いてもゴールできる。つまり7時間止まらずに歩く能力さえあれば完走(完歩と言うべきか)できるわけだ。

しかし、1度走ったことのある者は自己記録を更新しようとか、〇時間を切ろうとかといった色気が出てくる。これが曲者で、欲を出さねば楽なのに、なまじ自信が付いているからこその苦悩が生まれる。

ちなみに私は2年前に同じ大会を走っているので、2年前の記録との対戦ということになる。2年間で進化したか、退化したか。これが苦悩の素なのだ。

 

ランニング帰りに本屋で『マラソン』という雑誌を覗いたら、日本一流のランナーで自分より年上は1人だけだった(それでも1人'82年生まれがいた)。つまり私の年になるとトップランナーの大半は一線を退いている。それは、もう自分のピークはこれから先訪れないと悟ったことになるだろう。

登山をやっていると、60歳とか70歳とかいう人がわんさといるので、30代だと「若くていいわねぇ」と言われる。40だとさすがに若いとは言われないが、「まだまだ」といった感じで、少し年齢感覚がずれてしまうわけだが、やはり人生の中でのピークは過ぎているというのが人類史始まって以来の通説である。

20年ほど前、中日ドラゴンズのエースだった今中慎二投手が引退した時に(かなりうろ覚え、今監督をしている与田投手だったかもしれない)、「20代のころは疲れは寝れば取れると思っていたけど、30代になるとそうはいかなくなった」と語っていて、30代になることに戦慄を覚えた記憶がある。

格闘家の桜庭和志選手も「20代のころはラウンド間の1分で回復していたのが、30代に入ると回復しなくなった」と言っている。

一般人はそこまで身体的に自分の限界に挑戦することは少ないので自覚しにくいが、プロともなると、ピーク時からの落ち込みをどうしても意識してしまうのだろう。

 

一方で、イチロー選手が40歳を過ぎてから記者から年齢のことを聞かれた時(ヤンキースのころかな)、

「走るのは20代のころよりむしろ速くなっている」

と返していた。その頃はもうレギュラーで毎試合出るようなこともなく、成績としてはピークを過ぎていると言える時期だったのだが、記者の質問にちょっとムキになって答えている姿はなかなか印象的だった。

私の個人的な想像では、「加齢を言い訳にした瞬間、プロとしての資格を失う」という矜持があったのでないかと解釈している。

 

登山は30代でピークを迎える人が多い。特にアルパインと呼ばれる「より高い山を、より困難なルートから登る」手法を目指すクライマーは20代前半でピークなんていうことはない。

そもそもそんな危険な活動は親・先生から推奨されないので、10代前半からやることはほとんどない。むしろやってはいけない部類に入る。ほとんどが親から離れた20くらいから始めることになる。

しかも、登山はいくらのめりこんでも実行する回数に限界がある。天気が悪ければ山に行けないのはもちろんのこと、プロスポーツとして成立していない以上は働きながら行うしかない。それに、最初は夏山から始まって、徐々に冬山やバリエーションに移るのだから、他のスポーツよりはるかにステップが多い。かくして30代くらい、人によっては40代でピークを迎えるのだ。

 

私の友達(主に女性)は30代になってから山にハマっているケースが多い。最初はハイキング程度から入るわけだが、そのうち3000m峰の縦走、積雪期、アルパインライミングとステップアップしていく。

彼女たちの共通点は、10代に激しいスポーツをしていないことだ。10代・20代で激しいスポーツをやっていると、自分のピークが見えてくる。だが、その一方でピークから落ちる自分も見え始める。そうなるとなかなか続けにくいのではないだろうか。かつては楽々と歩けただろう坂道にも息が切れる。身体が重くて持ち上がらない。そんな状況が続くと「私ももう引退かな」と思うのが自然だ。

しかし、30代から始めた彼女たちは今までピークを迎えたことがない。トレーニングをすればするだけ伸びることになる。より難しいルートにも少しずつとはいえ挑戦できるようになる。そうなると楽しくなってくる。何より登山は明確に数値化されないので、「今が自分のピーク」と意識する指標がなく、純粋に楽しむことができる。

このあたりが30代からハマる要因ではないだろう。

 

今日は暑い中を走ると15kmくらいで疲れてしまった。まだ暑いという原因はある。しかし、暑さが和らげば30kmくらい軽く走ることができるかは保証できない。

さて、12月。私は2年前の自分を上回れるだろうか。

f:id:yachanman:20190825160343j:plain

今から8年前に名古屋から桶狭間古戦場まで走った