クモノカタチ

山から街から、雲のように思いつくままを綴ります

読書

魂の震える登山名文集④~角幡唯介

今から5、6年くらい前、年間24回登山に行っていた。つまり月2回ということになるのだが、週末登山者としては行ける時を全て費やしたことになる。 登山は天気が悪ければ行けないし、休日出勤もある。山に行かない日はボルダリングジムへ行っていた。 当然…

魂の震える登山名文集③〜服部文祥

好きなことをして生涯過ごせたらと誰しもが考える。今、それを実現できるのはユーチューバーということになるだろう。ただ、小学生のそうした願望を分別ある大人たちは断固として否定する。「世の中そんなに甘くない」と。 一方で小学生の頃からの夢を実現し…

魂の震える登山名文集②〜山野井泰史

御嶽山の噴火があった時、「あの日、山に行ってた?」と何人かに訊かれた。私がしょっちゅう山に行っていることを知ってのこと。御嶽山は遠目には美しい山だが、登って面白そうでもなかったので登る対象に入れたことはなかった。 ある人にはこう言われた。 …

魂の震える登山名文集①〜宮城公博

梅雨間近。週末はちょっとランニングするだけでダラダラ過ごしてしまう。 そして山に行きまくっていた頃を少し懐かしく思うようになった。 最近、低山ハイクくらいで山屋というより老後ハイカー。これではいかん、というわけではないのだが、登山者の名文を…

どんな人が荒野に憧れるのか~伊藤精一『俺のアラスカ』を読む

伊藤精一『俺のアラスカ』を読んだ。 少し前に服部文祥『You are what you read』に出てきて気になった本だ。伊藤精一さんというのはアラスカ在住の猟師。野田知佑さんのエッセイに登場していて、名前だけは知っていた。 簡単に書くと、若い頃は暴走族、長じ…

山小屋に生きるということ

週末は工藤隆雄『山小屋主人の炉端話』を読んだ。1998年から2000年まで『岳人』に連載されていたコラムで、表題のとおり山小屋の主人の思い出話が綴られている。 ヤマケイ文庫 定本 山小屋主人の炉端話 作者:工藤 隆雄 山と溪谷社 Amazon 思い返すに、私はあ…

登山者にはなぜか読書家が多い件について

なんだかバタバタしているうちにゴールデンウィークが終わっていた。 今度はいつの間にか梅雨に入って、紫陽花が咲いて散って、夏になっていてということになるのだろう。 梅雨と言えば読書になるわけだが、常々感じるのは登山者、特に1人で登る人に読書家…

「ねじ都市冒険記」は現実となるか

今、『アレクサ VS シリ ボイスコンピューティングの未来』という本を読んでいる。 内容はなかなか興味深いのだが、中でも笑ったのはシリに「アレクサ!」と読んだらどうなるかという話。 「アレクサって誰よ!」と嫉妬に駆られた彼女のような反応をすること…

服部文祥『You are what you read.』を読む

服部文祥さんの新刊『You are what you read.』を読み始めた。まだ最初なので感想は書けないけど、タイトルがいい。 「あなたは読んだものに他ならない」という邦訳はわかりにくいが、要は自分自身を形作っているのは読んできた本であるということだ。 You a…

将棋とイチかバチかの人生と

今年も将棋・名人戦七番勝負が開幕した。 私自身は今、ほとんど指すこともないのだが、それでも結果は気になる。藤井五冠が将棋界の序列トップとはいえ、名人は当代1人しかいない。 棋士というと分厚いメガネをかけたインテリかオタクっぽい雰囲気の人が多…

遊びと自由の人~野田知佑さん訃報に寄せて

野田知佑さんが亡くなった。 野田さんの名前を知ったのは雑誌『BE-PAL』の連載「のんびり行こうぜ」。最初は「昔はよかった」という懐古主義的な嘆きがあまり好きにはなれなかった。 しかし、その後『日本の川を旅する』、『のんびり行こうぜ』、『ガリバー…

今、自分は燃えているか?今、自分は生きているか?

今年は久しぶりにフルマラソンだと意気込んでいたら中止になってしまった。 中止は非常に残念だ。大会のいいところは目標を作りやすいこと。そして今、これに燃えているとわかりやすいことだ。 この週末は、北田雄夫『世界のはしからはしまで走って考えたこ…

新田次郎と山岳小説の系譜

北岳でのテント泊で新田次郎『小説に書けなかった自伝』を読んでいた。 新田次郎と言えば山岳小説。山岳小説言えば新田次郎という図式が成り立つ。しかしながら、新田次郎は山好きながら、登山家でも熱心な登山者ですらなかったようだ。 そんな人物だからこ…

人生の格言と男の信念

あっという間に2021年の半分が終わった。この調子ではあっという間に1年となり、あっという間に老後となり、あっという間に死を間近にしそうでなんとも怖い。そしていつしか「ジンセイとは」とか語りだしてしまうのだ。 人生とは何か。 あらゆる偉人が、答…

梅雨の時期に読みたい山の本

梅雨に入って梅雨らしい天気が続いている。 年間降水量は例年、10月の台風シーズンの方が多いようだ。しかし、熱海で土砂崩れがあったように、ここのところ例年がどんな感じかわからない状態が続いていて、降ってみないとわからんことになっている。 そんな…

ITリテラシーとスマートフォン

2020年の大学新卒者の特徴に「ITリテラシーが高い」とあった。 常に新しい技術への対応力があるのは若い人だし、今の20歳くらいの人はガラケーなんか知らず、最初からスマートフォン。まあスマホの扱いには長けているだろう。 しかし、それだけでITと言える…

社会不適合者の人生交差点

「いい加減山でも行きたいなあ」と考えるものの梅雨本番になってしまった。 3ヶ月くらい週休1日になっている。収入があるのはいいことだけど、忙し過ぎるのも考えものだ。 のんびりハイキングがしたい 吉玉サキ『小屋ガールの癒されない日々』を読んだ。就…

必ず成功することを続けてはいけない~石川直樹『最後の冒険家』を読む

石川直樹『最後の冒険家』を読んだ。 昨年、近所で石川さんの講演があって聞きに行った。話もさることながら、聴講者の質問がしっかりしている。誰もトンチンカンな質問はしない。テーマは読書と旅にまつわる話で、みんな一様に本が好きという人が揃っている…

クレイジーになる幸せと不幸~『奇跡のリンゴ』を読む

『奇跡のリンゴ』に関して雑感をもう一つ。 なぜ主人公の木村秋則は無農薬のリンゴに取り憑かれたのか。当人はバカだからという具合に笑い飛ばしているようだが、途中で自死も考えるくらいだから、本当にバカならできない。 バカというより狂っていた、「ク…

無農薬のエゴと生命の循環~『奇跡のリンゴ』を読む

石川拓治『奇跡のリンゴ』を読んだ。 今や日本一有名になったリンゴ農家、木村秋則の物語。 20代で無農薬のリンゴを作ろうと決意するものの、害虫が発生し、木々は病気にかかり、一家は破産寸前。すべてを終わりにしようと首を括る場所を探して山に入ったと…

結婚と冒険と登山と

図書館がずっと休館になっている。 緊急事態宣言となるたびに休館になるので、さすがにどうかという話になったのか、予約すれば貸出だけしてくれるようになった。開館していてもそれほど混むところではないので、不思議な対応であるが、ありがたい話ではある…

家を建てるリスク、建てないリスク

後輩がついに家を建てることにしたらしい。 と言っても土地の購入を契約しただけで、上物はこれから。注文住宅にするらしく、完成は来年の夏ごろになるという。 1年後の話だが、本人たちは一生に一度の買い物ということでかなり意気込んでいるようだ。 山で…

命を燃やすのに値すること

日曜日はのんびり過ごした。 起床して朝食を食べてから2時間のランニング。帰宅してから本を読んでいるとそのままウトウト。昼食を軽く素麺で済ましてコーヒーを飲みつつまた読書。夕方、近所を散歩してから夕食の買い物。 読んでいた本は、増田俊也『木村…

ハーケンとWEB授業~椎名誠『ハーケンと夏みかん』

「ハーケン貸してくれない?」 相方が唐突にリクエストしてきた。 ハーケンとは日本語に訳すと「岩釘」。岩の割れ目に差し込んで、支点にするための道具である。 なぜそんなものをリクエストしたかと言えば、椎名誠『ハーケンと夏みかん』をWEB授業で使おう…

日本に残るのはグルメ旅

『英国一家、日本をおかわり』を読んでいる。 これは『英国一家、日本を食べる』の続編(続々編かもしれない)で、イギリス人の筆者が日本のあちこちを家族を連れて旅行し、土地土地の美味いものを食べるというわかりやすい構成だ。 前作ではわりと高級なと…

ゲームの本質と遊びの本質

牧野武文『ゲームの父・横井軍平伝』を読んだ。 私は幼少の時からゲーム、特にテレビゲームにほとんど親しんでいない。せいぜい友達の家に遊びに行ってやらせてもらうだけで、上手くもないしやらずに今に至る。 その意味で任天堂という会社は私にとって縁遠…

『日本百名山』と旅の要素

山の本の代表格と言えば、深田久弥『日本百名山』である。あまりに有名なので、私も買って本棚に入れてはいるものの、なかなか完読できないでいる。 なぜかと言えば行ったことのない山は読まないからである。 先日、行った会津駒ヶ岳で私は百名山のうち47に…

さくらももこ『さくらえび』と「まとも」な生き方

今さらながら、さくらももこ『さくらえび』を読んだ。 「ちびまる子ちゃん」の時代は遠く去り、バツイチ子持ちの漫画家さくらももこが綴る日常である。漫画のまんまいい加減な父ヒロシ、わがままな息子くん、しっかり者と思いきやクセのある母。 どこか不思…

本で読む登山家の系譜~山野井泰史『垂直の記憶』と佐瀬稔『狼は帰らず』

私が初めて読んだ登山家の本は山野井泰史『垂直の記憶』だった。 中学生でクライミングに出会い、高校卒業後はアメリカ ・ヨセミテでクライミングバム(放浪者)生活。その後は北極圏や南米・パタゴニアでのアルパインクライミングを経て、ヒマラヤの高峰を…

日本人と神様の境界線

毎日、神社の前を通って駅に行く。 たまに朝も薄暗い時間に柏手を打ち、頭を下げる参拝者を見かけることがある。 今年は初詣も少なかったから、神様も聞く願いが少なかっただろうし、毎朝柏手を打てば叶えてくれるだろう(そんなこと書く私の願いは叶えない…